肛門専門科_京都市

痔の原因に、排便時の力む時間が関係します。

内痔核、痔の原因の一番は排便時に力んでいる時間が関係すると思います。よくアルコールがいけないとか、刺激物が良くないなどと思っている方が多いです。でもこれらが原因になることはないと思っています。内痔核の状態が悪い時にアルコールを飲みすぎたり、刺激物を食べすぎたりしたときに、内痔核の症状が強くなる(例えば出血が多くなるなど)ことはあります。アルコールを飲みすぎたり、刺激物を食べすぎる事で、下痢をしたり便が出にくくなることが原因になると思います。
内痔核、痔の原因の一番は排便時に頑張って力んでいる時間が長いことだと思っています。
そこで、その力む時間と内痔核の病気の程度を渡邉医院で検討したことを紹介します。
渡邉医院では、初めて受診された方や、久しぶりに受診された患者さんに対して、肛門の腫れ具合、内痔核や痔の状態をしっかり観察するために、微温湯による浣腸をして、浣腸した微温湯を力んでだしてもらった後の肛門の状態を診ています。浣腸するのとしないのでは、肛門の状態は大きく変わります。やはり、排便のする時と同じように、怒責(力む)していただいた後の肛門の状態を診ることで、正しく肛門の病気を診察し、診断することが出来ます。
そこで、微温湯を浣腸した後、微温湯を排出するまでの時間を調べて、怒責(力んでいる時間の長さで、どのように肛門の病気の程度が違うかを検討してみました。
この内容を臨床肛門病学会誌に投稿した論文を基に、分かりやすく紹介します。

はじめに

肛門の診察をする際に、ただ単に肛門鏡での観察や指診での診察では十分な診察や診断をつけることは難しく、怒責(力む)怒責した後の肛門の状態を診ることが大切です。渡邉医院では、50mlの微温湯(30~40℃)による浣腸を行って、これを排出した後の肛門の状態を診察していいます。浣腸して怒責してもらうのと、もらわないのでは全く肛門の状態が違うこともあります。微温湯を浣腸して、トイレでこの微温湯を出してもらう際に、微温湯を排出する時間(以後排出時間)が個々の患者に差があることを経験しています。排出時間が便秘の有無、内痔核の程度に関連があるかどうかを検討してみました。

対象(393例)と検討項目

検討した対象の患者さんは、排出時間が測定できた393例(男性184例、女性209例、平均年齢53.3歳)としました。疾患は、内痔核219例、裂肛72例、痔瘻14例、肛門周囲膿瘍4例、外痔核54例、肛囲皮膚炎25例、直腸脱2例、その他3例でした。
便秘に関しては、便秘の有無を確認できた391例を対象としました。
方法は、50mlの微温湯(30~40℃)を浣腸後、排出時間を測定。排出時間は微温湯浣腸後トイレに入って出てくるまでの時間としました。トイレは診察室に対してそれぞれ1カ所ずつあります。
微温湯の浣腸は、直腸内にある便を出すことが目的ではなく、微温湯を排出することで怒責してもらうのが目的でです。このことを患者に十分説明したうえで微温湯浣腸を行っています。また、微温湯の浣腸は直腸診で直腸内に便が無いことを確認してから施行しています。直腸内に便を確認した症例は、今回の検討から除外してあります。
便秘の有無に関しては、緩下剤の使用の有無にかかわらず、問診で患者が便秘であると答えた患者さんを「便秘有り」としました。
以上のもとで、便秘の有無による排出時間及び、内痔核に関してはGoligher分類の第Ⅰ度、第Ⅱ度、第Ⅲ度以上との間で排出時間を比較検討しました。統計学的検討を行い、p<0.05を有意差ありと判断しました。

検討の結果

1)内痔核の程度での比較
第Ⅰ度は119例、排出時間288.1±137.9秒、第Ⅱ度は36例、325.8±171.3秒、第Ⅲ度以上は64例、341.0±199.4秒と、内痔核の程度が悪くなるにつれ排出時間は長くなる傾向にありました。第Ⅰ度と第Ⅲ度以上を比較すると統計学的に有意に第Ⅲ度以上で排出時間が長かったです。(p=0.048)
2)便秘の有無
「便秘有り」が143例、排出時間は326.4±173.8秒、「便秘無し」が248例、排出時間は294.7±160.4秒と便秘有りの患者さんで有意に排出時間が長かったです(p=0.015)。

考察

内痔核の成因として血管起源説と肛門上皮滑脱説があります。現在最も有力な仮説は肛門上皮滑脱説です。
肛門上皮滑脱説は、本来生理的である肛門クッションにおいて痔静脈叢の拡張に関わる諸因子によって動静脈吻合を含んだ痔静脈叢の交通枝ネットワークに異常な拡張がおこり、うっ血や血栓形成によるクッション組織の膨張が出血や浮腫などの症状を引き起こしてきます。さらに支持組織の減弱と滑脱に関わる諸因子によって、膠原線維や弾性線維などの結合組織及び筋層組織の変性、断裂、肥大化がおこり支持組織が減弱化した結果として肛門クッションが過度に下方偏位して滑脱させ、脱出症状を引き起こしてきたものが痔核であるとされています。この支持組織の減弱に関わる諸因子に怒責(排便時の力み具合)があります。
今回の検討でも、内痔核の程度がすすむにつれて微温湯の排出時間が長くなる傾向があり、第Ⅰ度と第Ⅲ度以上を比較するとⅢ度以上で有意に排出時間が長かったです。このことは、排出時間が必ずしも怒責時間ではありませんが、怒責して排出する時間が内痔核の増悪因子になりえることを示していると思われます。また一方、患者との問診の際に、内痔核に罹患していることが原因で、排便後も残便感があり、このために過度に怒責してさらに内痔核を悪化させて悪循環にいたってしまう患者もいらっしゃいます。
肛門疾患にみられる排便障害を検討した論文には、排便時間はいずれの肛門疾患においても排便時間の延長をきたしている症例が多かったとしています。
Goligeher分類第Ⅲ度の内痔核で排出時間が長くなる要因の一つに、内痔核そのものの存在が残便感を引き起こし、さらに怒責時間を延長させ内痔核を悪化させていくのではないかと考えます。
今後の課題として、内痔核の術後治癒した時点での排出時間を測定し、排出時間が短くなるか同かを検討していく必要があります。
また、便秘は痔核の原因の一つとして一般的に考えられているが、便秘と痔核の発生との関連についてのエビデンスは乏しいとされています。
しかし、今回の検討では「便秘無し」と比較して「便秘有り」では有意に排出時間が長かったです。このことは「便秘有り」では直腸内の内容物を怒責して排出し難かったり、怒責することが習慣になったりしているのではないかと考えられます。このことからも、便秘についても排出時間が長くなるという点では内痔核の原因や増悪因子になるのではないかと考えます。また、怒責しても微温湯が十分に排出できず、直腸内に残っている患者さんもいます。このような患者さんは、排便出口障害など直腸内容物を排出し難い原因が隠れている可能性があると考えられ、排便障害などの症状がある場合は、defecographyなどさらなる精査をすすめる必要があると考えます。このような意味からも微温湯浣腸後の排出時間や直腸内に残っている微温湯の量など排便障害の診察をすすめるうえでの参考にもなると考えます。
以上のことをふまえ、内痔核の発生や病状の悪化を予防するために、怒責時間など排便指導、排便の調整を行っていく必要があると考えます。
やはり、便秘などで、排便時に怒責(力む)している時間が長いことが、内痔核の原因や状態の悪化につながると思言います。
今回も、少し論文を基にして具体的な数字をあげて内痔核の原因の一つである怒責した時間を検討しました。やはり怒責している時間が長いと内痔核、痔の原因になり、また内痔核の程度が悪くなると、怒責してる時間が長くなります。便秘の患者さんは便秘を治し、怒責している時間を短くしてあげることが無い痔核、痔の予防や治療にもなります。
痔でお悩みの方は、肛門科を専門に診療している京都の渡邉医院をぜひ受診して相談していただければと思います。
また便秘の改善などで食事の指導などを管理栄養士さんがしています。
排便の状態を良くして、怒責している時間を短くすることも内痔核の予防や治療になります。
痔の原因となる便秘などでお悩みのかたも、食事の内容など管理栄養士さんと相談していただければと思います。
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医院情報

店舗名渡邉医院
住所 京都府京都市上京区浄福寺通今出川下ル竪亀屋町255
TEL075-441-4303
URLhttp://www.watanabe-arc.jp
営業時間【月~土 午前】9:00~12:00 【月・金 午後】17:00~18:00
営業日休診日 : 日曜日・祝祭日
紹介文肛門疾患に特化した、肛門科専門の19床の入院設備のある有床診療所です。外来の診察だけでなく、入院での手術・治療が可能です。年間約3,000人の新患の患者さんが受診されています。排便時の出血、痔核の脱出、痛み、かゆみなど肛門に係る不快な症状でお悩みのかたの治療を行っています。また、肛門疾患の原因でもある便秘の相談、治療も行っています。手術の件数は、月平均約50件、年間約600例です。肛門の三大疾患といわれている内痔核が50%、痔瘻が15%、裂肛が13%で、その他に外痔核が13%、その他9%の割合になっています。 お尻のことで悩み事があれば、ご相談ください。