肛門専門科_京都市

血栓性外痔核は急にでき、痛みのある痔です。

血栓性外痔核は、肛門の外側の静脈に血栓ができ、急に腫れて痛みのでる痔です。
もともと人間は二足歩行なので、肛門の静脈はうっ血しやすく、血液の流れが悪いところです。そのようにもともと血液の流れが悪いところに、忙しかった、寝不足だったなどのストレスがかかるとさらに血液の流れは悪くなります。またストレスがかかると、血小板がくっ付きやすきなって、血栓ができやすくなります。そういったいろんな条件が重なって、最後は便がでにくく排便時の力みが強かったり、重たいものを持ったりしてお腹に力が入った時に、血栓が詰まり、急に腫れて痛くなります。もともと持っていたものが悪くなったわけでなく、こういった原因が重なって、たまたま運悪く血栓がつまったものです。
治療は、基本は手術ではなく、消炎鎮痛剤の坐薬や痛みを抑える成分が入った軟膏などを使って治していきます。極端なことをいうと、ほっておいても必ず腫れが引いて痛みがとれ、血栓は徐々に溶けて治っていきます。でも痛みがあるので坐薬や軟膏を使います。ただ、手術する場合もあります。血栓が親指より大きかったり、痛みが非常に強い場合は、局所麻酔をして血栓をとります。ほっておいても治るものを手術して、手術後痛いと意味がありません。手術で血栓を取り除くと、痛みはスットとれます。
ただ、本当に血栓性外痔核だけなのか。奥に内痔核がないかどうかを確認する必要があります。血栓性外痔核だけでなく、内痔核もあり、排便時にこの内痔核も外に出てくることもあります。
こんな場合は、血栓性外痔核だけを手術しても内痔核が外にでてくるので、かえって手術をすることで痛みが強くなることがあります。血栓性外痔核だけなのか、内痔核は無いかをしっかり確認して治療方法を決めなければなりません。
今回は渡邉医院で経験した血栓性外痔核について、「臨床肛門病学」という雑誌に投稿した論文をわかりやすく紹介します。
少し論文調になりますが、分かりやすい言葉を追加して紹介します。

はじめに

血栓性外痔核は急激な痛みと主張を主訴として、肛門科の外来ではよく遭遇する疾患です。
2014年版の肛門疾患診療ガイドラインには、血栓性外痔核は外痔静脈叢のうっ血により急性に血栓(血豆)を生じたもので、短時間の経過で形成され、血栓の急激な体積増大(腫れてくる)による局所内圧の上昇により、発生後1~4日をピークとする疼痛を訴えることが多いとしています。また、同ガイドラインでは治療法としては、血栓性外痔核の治療の基本は保存的治療ですがが、血栓が大きい場合や、疼痛が強い場合、また、出血が続く場合には急性期の外科的切除を考慮するとあります。(血栓が破けて出血することもあります。)渡邉医院でも血栓性外痔核の治療は保存的治療(坐薬や軟膏)を基本として、痛みが強い症例に対して血栓摘出術を施行しています。今回これまで経験した血栓性外痔核に関して検討しました。

対象(8915例)と検討項目

今回検討した血栓性外痔核の対象は、H8年2月からH27年3月までに血栓性外痔核で受診された8915例の患者さんを対象にしました。。
検討した項目は、
①性差、年齢別の症例数
②手術症例での血栓性外痔核の発生部位。
このことについて検討してみました。

渡邉医院の治療方針

渡邉医院での血栓性外痔核の治療方針は、第一選択は、まずは外用薬による保存的治療を基本としています。使用する外用薬は、アミノ安息香酸エチル軟膏とジクロフェナクナトリウム坐薬(基本は50mg)を使用しています。商品名では、ボルタレンという消炎鎮痛剤です。アミノ安息香酸エチル軟膏は1日2回、ジクロフェナクナトリウム坐薬は1日1回、もしくは2回使用しています。
外科的切除を行う場合は、血栓性外痔核の大きさが拇指頭大以上の大きさであったり、疼痛が強い場合には手術して血栓を摘出しています。疼痛が強くない場合でも、血栓性外痔核のために、違和感が強く、切除を希望するなど、患者酸の側の要求も外科的切除の適応として考慮しています。
手術は左側臥位(左を下にして横になり、膝を曲げて少し丸くなってもらう姿勢)で1%塩酸プロカインによる局所麻酔下に血栓摘出術を行っています。手術の後はすぐに帰宅して出血などがあるとこまるので、術後1時間病室で安静にして休んでもらった後、帰宅してもらっています。

検討の結果

血栓性外痔核8915例中、保存的治療は8037例(90.2%)手術治療は878例(9.8%)でした。保存的に治療した患者さんが90%です。
① 性差、年齢別症例数
血栓性外痔核8915例中、男性4795例(53.8%、平均年齢43.5歳)、女性4120例(46.2%、平均年齢45.3歳)と明らかな差は認めませんでしたが、男性でやや若い傾向にありました。また年齢では男女とも30歳代にピークを認めました。手術症例も、男性443例(50.5%、平均年齢39.2歳)、女性435例(49.5%、平均年齢42.9歳)と、男性がやや若い傾向がありました。
② 手術症例での血栓性外痔核の発生部位
手術症例で血栓性外痔核外痔核の発生部位を前後左右で複数発生を含めて検討すると、男性では465ヶ所中、前方34例(7.3%)、後方212例(45.6%)、左201例(43.2%)、右18例(3.9%)。
女性では476ヶ所中、前方82例(17.2%)、後方218例(45.8%)、左173例(36.1%)、右4例(0.9%)でした。
女性で前方発生が男性よりやや多い傾向にありました。
内痔核の後発部位である3時、7時、11時で比較すると、男性ではそれぞれ179例(38.5%)、196例(42.2%)、33例(2.4%)で合計408例(83.1%)。女性ではそれぞれ147例(30.9%)、147例(30.9%)、67例(14.1%)で合計361例(75.9%)でした。女性で内痔核後発部位での発生率がやや少ない傾向でしたが、11時の方向では女性にやや多く発生する傾向がありました。
また裂肛の好発部位である6時と12時で比較すると、男性ではそれぞれ5例(1.1%)、0例(0%)で合計5例(1.1%)であるのに対して、女性ではそれぞれ27例(5.7%)、6例(1.3%)で合計33例(7.0%)と女性でやや多い傾向がありました。

考察

外痔核の成因やその病態は、肛門部の静脈叢において、怒責、硬便、頻回の排便等の物理的圧力によって自覚症状が出ない程度の小血栓の発生と吸収が繰り返され、その膨隆と委縮の積み重ねにより血管壁の脆弱化、静脈の拡張、慢性炎症、支持組織の過伸展、線維化、上皮の肥厚などが進行していきます。そして、歯状線遠位側において急性血栓症を主にしたものは血栓性外痔核となり、上皮の肥厚と線維化を主としたものは皮垂(シワ)に、静脈瘤の拡張・膨隆を主としたものは静脈瘤性外痔核の臨床像をとるとされています。
今回はこの中で、血栓性外痔核に関して検討しました。
経験した血栓性外痔核8915例中、8037例が保存的治療で878例(9.8%)のみが外科的治療を行いました。。このことは、肛門疾患診療ガイドラインに示された、血栓性外痔核の治療の基本は保存的治療であるとするガイドラインにそった治療を行っていることを示しています。しかし、肛門疾患診療ガイドラインに、外科的切除と保存的治療を後ろ向きに比較した研究では、再発率が保存的治療群25.4%に対し切除群6.3%、再発期間が保存的治療群7.1ヶ月に対して切除群25ヶ月と有意差があることから、外科的切除のほうが早く治癒するという報告もあるとしています。渡邉医院においても、複数回にわたり血栓性外痔核を発症している患者さんがいたり、複数回の発症までの期間が短い患者を経験したりすることがあります。このことから、外科的治療と保存的治療による再発の頻度やそれまでの期間をさらに検討する必要があると思います。
性別による差では、男女差は認めなかったことから、血栓性外痔核は性別による要因はないと考えられます。また年齢分布をみてみると、男女とも30歳代にピークを認め、年齢とともに減少しました。このことは、血栓性外痔核の発生する要因に若年者による怒責の強さがあるのではないかと考えます。
血栓性外痔核の発生部位では、内痔核の好発部位に多く認めました。
男性では、3時、7時、11時に発生した血栓性外痔核は408例(83.1%)、女性でも361例(75.9%)でした。これは、動脈系では上直腸動脈が直腸の3時、7時、11時方向で直腸壁を貫き、粘膜下を歯状線近くまで下降。静脈系では肛門部では中、下直腸静脈を経て内腸骨静脈、下大静脈に流入し、これらの静脈はこの3方向の動静脈叢から発します。これらのことから血栓性外痔核も内痔核同様に3時、7時、11時の方向に多く発生すると考えます。
発生部位で性差をみてみると、女性では男性と比較して裂肛の発生部に多い傾向がありました。男性では6時と12時に発生した血栓性外痔核は5例(1.1%)であるのに対して、女性では33例(7.0%)でした。これは、肛門疾患診療ガイドラインには、血栓性外痔核は外痔静脈叢のうっ血により急性に血栓を生じたものとしています。さらに、血栓性外痔核の成因として、しばしば、静脈が破けて血液が周囲組織に滲出し、血管周囲に血腫を形成し、血腫内の血液が血管内外に血栓を形成することがあるとされています。
裂肛による血管損傷が原因で血腫を形成し、それが血栓性外痔核となるのではないかと考えます。したがって、男性と比較して女性に裂肛の発生頻度が高いことから、女性に裂肛の発生部位に血栓性外痔核が多くみられるのではないかと考えます。このように、血栓性外痔核の発生には男女差がないものの、発生部位にはそれぞれの血栓性外痔核以外の肛門病変の特性で、違いが出てくるのではないかと考えます。
今回は、少し論文を基に難しい内容だったかもしれませんが、これまで渡邉医院で経験してきたことを、数字をあげてこれからも紹介していこうと思います。
痔でお悩みの方は、肛門科を専門に診療している京都の渡邉医院をぜひ受診して相談していただければと思います。
また管理栄養士さんによる、栄養指導、栄養相談もしています。痔の原因となる便秘などでお悩みのかたも、食事の内容など管理栄養士さんと相談していただければと思います。
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医院情報

店舗名渡邉医院
住所 京都府京都市上京区浄福寺通今出川下ル竪亀屋町255
TEL075-441-4303
URLhttp://www.watanabe-arc.jp
営業時間【月~土 午前】9:00~12:00 【月・金 午後】17:00~18:00
営業日休診日 : 日曜日・祝祭日
紹介文肛門疾患に特化した、肛門科専門の19床の入院設備のある有床診療所です。外来の診察だけでなく、入院での手術・治療が可能です。年間約3,000人の新患の患者さんが受診されています。排便時の出血、痔核の脱出、痛み、かゆみなど肛門に係る不快な症状でお悩みのかたの治療を行っています。また、肛門疾患の原因でもある便秘の相談、治療も行っています。手術の件数は、月平均約50件、年間約600例です。肛門の三大疾患といわれている内痔核が50%、痔瘻が15%、裂肛が13%で、その他に外痔核が13%、その他9%の割合になっています。 お尻のことで悩み事があれば、ご相談ください。