肛門専門科_京都市

肛門周囲膿瘍は急に腫れてきて、痛みのある痔です。

肛門周囲膿瘍は肛門腺に感染を起こして化膿してくる病気です。急に腫れ、痛みがどんどん強くなります。
肛門周囲膿瘍になる場合は、下痢の場合が多いのですが、排便の状態が悪く、肛門腺に細菌感染をおこし、さらに忙しかった、寝不足だったなど、自分の側の抵抗力などが低下している場合におきてきます。肛門腺に炎症をおこし化膿してきます。膿瘍は組織の弱いところ弱いところに広がり表面まで広がっていきます。何もないところにものがたまる。ましてや膿瘍が広がることで急速に痛みが強くなってきます。場合によっては38度以上の発熱をともなうこともあります。
肛門周囲膿瘍になった場合は、適切に切開して排膿する必要があります。
ただ、肛門周囲膿瘍になって、切開排膿したり、自然に膿瘍が破けて排膿した後、必ず痔瘻になって痔瘻根治術が必要になると思っている方が多いです。また、ほっておくとどんどん痔瘻が悪くなると思っているかたもいます。渡邉医院では、肛門周囲膿瘍に対して切開排膿をした後、なんの症状もでない方が70%いらっしゃいます。必ず痔瘻になって痔瘻根治術が必要になるわけではありません。
今回は渡邉医院で経験した肛門周囲膿瘍について、「臨床肛門病学」という雑誌に投稿した論文をわかりやすく紹介します。
少し論文調になりますが、言葉を追加したりしてわかりやすく紹介したいと思います。

はじめに

肛門周囲膿瘍は、肛門の日常診療でよく遭遇する疾患であり、適切な診断が必要となります。また診断がついた際には、早急に必要でかつ十分な切開を行い排膿しドレナージする必要があります。
肛門周囲膿瘍において最も頻度の高いタイプは低位筋間膿瘍とされています。このタイプの肛門周囲膿瘍では、切開排膿のみで根治する患者さんが、ある一定程度の割合で存在するという報告があります。
渡邉医院においても、肛門周囲膿瘍に対して切開排膿術を行った後、痛みや腫脹、排膿などの症状もなく経過していく患者さんも少なくありません。今回、渡邉医院で肛門周囲膿瘍に対して切開排膿を施行した患者さんのその後の経過について検討しました。 

対象(562例)と検討項目

平成14年1月から平成24年12月までに切開排膿術を施行した肛門周囲膿瘍562例の患者さん(男性502例、平均年齢43.0歳、女性60例、平均年齢42.6歳)を対象としました。
渡邉医院では、肛門周囲膿瘍切開排膿術を施行する際、体位は左側臥位(左を下にして横になる姿勢)で行い、麻酔法は1%プロカインによる局所麻酔下に行っています。
切開排膿後は切開創の程度に合わせてガーゼを挿入し、膿が十分にでるようにドレナージしています。術後は原則として、術後1日目より入浴を開始し、抗生剤及び消炎鎮痛剤の内服は5日間としています。
 検討した項目は、
①性差
②切開排膿術施行後の外科的治療法の有無、また2回目以降の外科的治療を施行するまでの期間の2項目としました。
今回の検討では肛門周囲膿瘍のタイプ別での検討は行っていません。観察期間は最長1983日でした。

検討の結果

肛門周囲膿瘍は男性502例(89.3%)、女性60例(10.7%)と男性に多く、平均年齢は男性43.0歳、女性42.6歳と差は認めませんでした。
切開排膿術を施行後、痔瘻根治術を行った症例は、男性150例(30%)、女性19例(32%)、再度切開排膿術を施行した症例は、男性40例(8.0%)、女性4例(6.7%)、3回以上切開排膿術を施行した症例は男性10例(2.0%)、女性1例(1.7%)といずれも男女差は認めませんでした。
切開排膿術を施行後、痔瘻根治術を施行するまでの期間は平均150.5日であるのに対して、再度切開排膿術を施行するまでの期間は621.1日と、切開排膿術を施行するまでの期間の方が長い傾向がありました。
また、痔瘻根治術は6ヶ月以内で134例(79.3%)、切開排膿術は6ヶ月以内で13例(19.1%)でした。

考察

肛門周囲膿瘍は男性に多く認めましたが、年齢には男女差を認めませんでした。
切開排膿術を施行した後、二期的に外科的治療を行った症例は男女とも30%であり、他院での治療を受けている可能性もありますが
70%の症例が1回の切開排膿術を施行することで、その後の外科的治療を受けずに経過しています。この結果は低位筋間膿瘍に対して切開排膿術施行後の症状の有無を検討した報告で、「症状なし」が65%であったという結果や、切開後の痔瘻発生の頻度が29 %~40%であるという報告。さらに、切開排膿単独治療での再発率が34%とする報告とほぼ同じ結果でした。しかしながら、今回の検討では肛門周囲膿瘍のタイプ別での検討ができておらず、深部膿瘍では切開排膿のみで「症状なし」は29%であるという結果があります。また、肛門周囲膿瘍の型が深部に進むほど切開排膿後の再発率は高くなると指摘している論文もあります。また、肛門周囲膿瘍切開排膿術後32%で肛門周囲膿瘍の再発がなかったとする全く反対の報告をしている論文もあります。今後肛門周囲膿瘍のタイプ別での検討が必要だと思います。
また、切開排膿術後に再度切開排膿術を施行している症例は男性で8.0%、女性で6.7%と性差は認めず、施行までの期間は平均621.1日であり、痔瘻根治術までの期間150.5日と比較すると期間が長い傾向があります。また痔瘻根治術の79.3%は6ヶ月以内に施行されているのに対して、再度切開排膿は6ヶ月以内では19.1%でした。この期間の差は何に起因するのか。肛門周囲膿瘍に対して切開排膿術を施行後の経過を診ている際に、二次口の形成なく切開創が閉鎖していく症例と、同時点で二次口・瘻管がしっかり形成されていく症例があります。この差の要因として、肛門周囲膿瘍の発生早期に十分なドレナージができたり、原発口の炎症が比較的軽度であったりした場合は痔瘻に移行しないのではないかと考えます。今後、肛門周囲膿瘍の症状出現から切開排膿までの期間の検討も必要と思われます。
また、40歳未満と非糖尿病患者が肛門周囲膿瘍に対して切開排膿後に痔瘻となる危険因子と報告する論文もあります。今後年齢や糖尿病などの合併症との関連も検討していく必要があると思います。
肛門周囲膿瘍の治療において膿瘍切開のみと一期的に瘻管切開術を比較した報告では瘻管切開術は失禁が軽度9%、重篤4%となっています。このことからも、肛門周囲膿瘍に対して切開排膿術を施行後、早期に痔瘻根治術を行うのではなく、瘻管形成の有無や自覚症状の有無など考慮しながら痔瘻根治術を行う適応や時期を検討していく必要があると思います。瘻管を形成しても、瘻管からの排膿や、痛みなどの自覚症状がない場合は積極的に痔瘻根治術をしなくてもよいのではないか。繰り返す排膿や痛み、腫脹など何らかの症状がある場合など、適応をしぼることも必要だと考えます。
今回は、肛門周囲膿瘍に対して切開排膿を施行した後の経過について紹介しました。肛門周囲膿瘍で切開排膿したから必ず痔瘻になって、痔瘻根治術が必要になるわけではありません。症状の有無など、経過を診て必要な場合にのみ痔瘻根治術を行う。痔瘻根治術の適応をしっかり判断する必要があると思います。
痔でお悩みの方は、また急に肛門が腫れて痛みがでたかたは、肛門科を専門に診療している京都の渡邉医院をぜひ受診して相談していただければと思います。
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医院情報

店舗名渡邉医院
住所 京都府京都市上京区浄福寺通今出川下ル竪亀屋町255
TEL075-441-4303
URLhttp://www.watanabe-arc.jp
営業時間【月~土 午前】9:00~12:00 【月・金 午後】17:00~18:00
営業日休診日 : 日曜日・祝祭日
紹介文肛門疾患に特化した、肛門科専門の19床の入院設備のある有床診療所です。外来の診察だけでなく、入院での手術・治療が可能です。年間約3,000人の新患の患者さんが受診されています。排便時の出血、痔核の脱出、痛み、かゆみなど肛門に係る不快な症状でお悩みのかたの治療を行っています。また、肛門疾患の原因でもある便秘の相談、治療も行っています。手術の件数は、月平均約50件、年間約600例です。肛門の三大疾患といわれている内痔核が50%、痔瘻が15%、裂肛が13%で、その他に外痔核が13%、その他9%の割合になっています。 お尻のことで悩み事があれば、ご相談ください。